リサイクルショップには、たくさんの中古品が集まります。
「誰かが使わなくなった不要な物」「古い物」と言ってしまえばそうなのですが、黒電話やレコード、昭和のアイドルの下敷きなど、ちょっと懐かしい気持ちになるものや、
一般人には使い方のわからない専門的な工具や機器など、見ていてわくわくするようなもの、そんな出会いがあるのが、このお仕事の醍醐味です。
古本も大量に入荷してくるのですが、本の場合、前の持ち主の生活や人となりが見えてくる事もあります。
人間関係に関する本が多い人は、人との関わり悩んでいたのかな?とか、
資格試験の本が多い人は、お仕事に必要だったのかな?とか、自己啓発系が多い人は、
常に自分と向き合う努力の人だったのかな?などなど。
大量の本から勝手な想像をするのも、また楽しいものです。
通常はそれらの本を整理し、検品して中古品として再販売をする準備をするのですが、
その過程の中で、手が止まる1冊がありました。
カバーもなく茶色く変色した、とても古い「おくのほそ道」です。
裏表紙を見ると、記名がされています。
記名自体はよくあることですが、そこに書かれていた名前は「都・青山高 Ⅱ年 TARO ISHIDA」。
なんと、本名「石田太郎」さんこと、俳優の「石田純一」さんが高校時代に所有されていた本だったのです。
(どうして石田純一さんのものと分かったのか?という点に関しては、
お客さまとの関係がありますので、詳細は控えさせていただきます)
まさか板橋区のリサイクルショップの店員の日常が、石田純一さんの青年期とつながるなんて!
…と、不思議な高揚感が湧いてきました。
本自体はいまから50年以上前に出版された「おくのほそ道」で珍しい内容ではありませんが、
最後のページには石田さんが書かれたと思われる文章がありました。
「今では手をさしのべても
帰らない 帰らない
朝は二度と帰らない
愛をのこしたまま」
戻らないものへの切なさ、もどかしさを感じさせる文章ですね。
調べてみると、ザ・タイガースの曲で「嘆き」という歌があるのですが、その歌詞に影響を受けていたのかな?と思われます。
流行歌に心を奪われていた青春期が伺えますね。
石田青年の心が50年の時を超えて自分の目の前にあるかと思うと、
さらに私の気持ちはたかぶってしまい…。
このままこの本を再販売して、何も知らない方の手に渡ってしまってよいのだろうか?
と惜しく思ってしまったのです。
そこで、石田純一さんの事務所にこの本の存在をお伝えし、
この石田さんの文章をブログに掲載させていただいても良いか、図々しくもメールさせていただきました。
相手にしてもらえないかな…という気持ちもあったのですが、
すぐに担当者様より返信をいただき、石田さんがお許しくださったとの事でした。
とてもありがたい事です。
こんな風に時を超えた出会いもあるのが、このお仕事の素晴らしさです。
これからも様々な物を通して、人生に触れさせていただく事を楽しみにしています。